飯間浩明先生といっしょに考えた、使える「国語辞典」の選び方

[ チルドリン vol.04 2006年3月発行より ]

子どもの学力を左右する
国語辞典選びは
やっぱりママの責任ですよ。

子どもの学力や思考力を高めるために、あらためて「言葉の力」が重要視されています。
文部科学省はこれまでの「ゆとり教育」を転換し、この「言葉の力」を全ての教育内容に必要不可欠な基礎として位置付け、学習指導要領を全面改訂すべく動き出しました。
「チルドリン」は子どもたちが言葉の運用や表現を身につけるためのはじめの一歩は、子どもの頃からよい辞典を使うことだと考えました。
3月になると本屋さんには国語辞典がたくさん並びます。
子どもの辞典選びで困っているママはぜひ参考にしてください。

「お母さん、『こわい』と『おそろしい』ってどう違うの?」と、子どもからそう尋ねられて、とっさにこたえられるでしょうか? ニュアンスではわかるけれど、言葉で説明するのは意外と難しいということを、子どもからの質問で実感することがあります。あらためて考えてみると、大人になってからも、曖昧なまま使っている日本語がたくさんあることに気づきます。それは一方では、日本語の複雑さを物語っているとも言えます。そこで頼りになるのが国語辞典です。きちんとした辞典があれば、子どもが自分自身でわからない言葉を調べて解決することができます。

しかし「辞典選びは難しいですよ。しかも、子ども用の国語辞典は言葉に対する興味を左右するので、ますます難しいと言えます」と、今回、辞典選びについて教えていただく、早稲田大学で日本語の表現について教えている飯間浩明先生はそう言います。

みなさんはどのような基準で子どもの辞典を選びますか?
「売れているから」「みんなが持っているから」「学校にあるから」というように、さまざまな理由があります。でも、購入した辞典が辞典本来の役割を果たさない場合もあるのです。子ども学力を左右する大切な辞書選びについて、飯間先生と少しまじめに考えてみました。「もちろん、気に入ったものを選んでかまいません。子どもにとってはそれが一番なのかもしれないですから。本のデザインや収録語数、友だちが持っているとか、学校の推薦、あるいはキャラクターや値段、文字の大きさ、イラスト入りなど、内容と直接関係ないことでも、子どもの興味を引くなら、それも無視できません」

しかし、例えば『こわい』を引くと『おそろしい』が、『おそろしい』を引くと『こわい』が出てくるような辞典では困ってしまいます。現実にはそのような辞典は、実際にいくつか存在します。だからこそ「わかりやすく、正しく言葉を説明しているか」というのが、最大のポイントだと飯間先生は言います。
「例えば、アザミを引いて『キク科の植物』と載っているよりも、『タンポポのような花で、紫色をしている』と記述してある方がパッとイメージが浮かびますよね。わかるとは、そういうことです。また、語数は多ければいいというものではありません。小学生用の辞典であれば、3万語前後で十分です。むしろ、よく使う単語をわかりやすく説明しているかがチェックポイントになります」

今回、「わかりやすさ」をテーマに飯間先生といっしょに本屋さんに行って、辞典選びをしました。チェック項目は次の6つ。(1)ふりがな、(2)意味が最初、(3)用例が豊富か、(4) 『こわい』/『おそろしい』(もしくは『さげる』/『たらす』/『つるす』)の違い、(5)『さいわい』の意味、(6)『せん毛』の意味です。(1)はすべての漢字にふりがながあれば、漢字の苦手な子には親切。(2)の用例よりも意味を先に書いてないと、実際に見づらい。(3)は用例がないと、実際にどういう状況で使えばいいのかがわからない。(4)は、似たような言葉のニュアンスの違いを表現できるか、(5)は『しあわせ』などの言い換えではなくて、『ものごとがうまくいくこと』など、簡単な言葉で説明されているか。そして、(6)は『原生生物の体の表面にある、細い小さな毛に似たもの』という説明だと「原生生物って、何だろう?」となるので、『原生生物』という言葉を使わずに説明がなされているか、ということをチェックしました。実際にやってみると、どの辞書も完璧とはいきませが、明らかに不親切だと感じるものは除外することができます。
「今実際に子どもが教科書でわからない単語をいくつか書き出し、そのメモを持って辞典を調べるというのがよいと方法だと思います」

実際に比べてみると、どの辞典も一長一短です。ですが、納得のいく辞典選びをして、正しい言葉の使い方を身につける手助けをするのが、ママの役割ではないでしょうか? 余談ですが、先生はママが持っておくとよい辞典として『三省堂国語辞典』をあげています。「言葉をスケッチするように説明している」わかりやすい辞典なので、子どもに説明するときに、そのまま読んであげられます。

文部科学省は次期学習指導要領に「言葉の力」を据えることになりました。近年、読解力や記述式問題の苦手な子どもが増えているのです。これは、国語に限らず、すべての教科における共通の現象です。
「国語の授業で『みんなの感性で読もう』というのは、ある意味危険なことなんです。言葉が理解できていないと、感情もわからないですから。例えば『熱いものがこみあげる』『顔が赤くなる』と書いていても、どういうことがわからない子どもが増えています。他者と触れ合うことが減り、表情や言葉から感情を読み取ることができなくなってるんです。一方で、自分の考えを言葉にして相手に伝えることも苦手です。気持ちや考えをうまく伝え合えるようになるためには、まず言葉に興味を持つことです。また、上の世代と言葉を共有できなくなっている傾向があります。先生や両親、おじいちゃんやおばあちゃん世代との会話を増やすことも、言葉の力をつけることになります」

私たち大人も子どもといっしょに、曖昧ではなく正確な日本語を身につけていくことが、大切だと思います。自分の頭で考え、それを言葉にする。そのためには、やはりよい辞書を使って表現力を身につけることが必要なのではないでしょうか?

子ども用の国語辞典はいろいろあります。
実際に書店で辞典を手にとって探してみてください。

【profile】
飯間浩明(いいま・ひろあき)先生
日本語研究者。早稲田大学文学研究科博士後期課程了。早稲田大学助手を経て、2000年4月から現在まで早稲田大学非常勤講師(早稲田大学日本語研究教育センターおよび早稲田大学メディアネットワークセンター)。主な研究は「源氏物語」など古典作品の形容詞の意味構造について。著書に『遊ぶ日本語 不思議な日本語』(岩波アクティブ新書)、監修『NHKわかる国語 読み書きのツボ』(MCプレス)がある。
www.asahi-net.or.jp/~qm4h-iim/

[ チルドリン vol.04 2006年3月発行より ]